タイトルマッチ

 いつも使っていたイヤフォンが何故だかぐんにゃりしてしまったので、新しいモノを買おうと近所の家電量販店に行きました。そしたらそこで、小さなバトルが繰り広げられていたのを目の当たりにし、そのことを不特定多数の人たちに伝えなきゃっていう使命感に突き動かされたので、書こうっと。

 この一段落目は、ただの俺の主張ですが付き合え。ここ数年で台頭してきている、耳の中にグンッて入れ込む感じのイヤフォンが嫌いなんですよ。確かにコイツを使うとノイズが減って音がクリアになるような気がしないでもないですけど、それでもやっぱり、グンッとアレがオレの耳の穴に入り込んでくる感じが気持ち悪くてしょうがないのです。だからオレは常々、表面が平たくてメッシュ状になっているタイプのイヤフォンを愛用しています。ありがとうございました。主張、終わります。

 その愛用していたイヤフォンを、ある日あるときうっかりと踏みつけてしまい、結果的にそいつはぱかっとなってぐんにゃりしてしまいました。不幸な事故としか言いようがないけれど、結果を憂いているだけでは未来に繋がらないことを知っているオレは、迷わず近所の家電量販店に向かい、意気揚々と自動ドアを踏み越えました。そこから広がる、小さなドラマの話。

 その、家電量販店の自動ドアを踏み越えた先に広がっていた光景は、具志堅用高 VS 5,6歳くらいの男の子っていう、何とも不思議な構図で。雰囲気的には、ストツーの試合が始まる前みたいな感じ。いまにもどこかから「ラウンドワン、ファイッ!」って聞こえてきそうな。まぁもちろん具志堅の方はリアル具志堅ではなくて「光に加入してね!」的な広告を兼ねた、なんつーのかな、なんかおもちゃであるじゃん、殴ってもボフンと戻ってくる空気人形みたいなヤツ。だるま的な、トンってしても戻ってくるようなアレ。あんな感じの風船具志堅と、5,6歳くらいの子供が対峙していたのです。

 で、その、あんな感じの風船みたいなヤツにプリントされた具志堅は、両手にボクシンググローブをはめて陽気に何かの宣伝をしていやがる。そんな姿に何かしらの憤りを感じたのか、その男の子はつたないファイティングポーズを取って「なぐるぞ、いまからおまえをなぐるぞ」っていう体勢になっていたのです。ちょうどその「なぐるぞ」のタイミングでそこを通りかかったオレは色んなことを察して「おぉ少年、やる気なんだな」と思い、その後の展開をさりげなく見守ることにしました。

 ここからはオレの推測なんだけど、その、具志堅の偉大さを知らないであろう、小学生に上がるか上がらないかくらいの少年はおそらく「この具志堅空気人形を殴ったら一回は倒れるけど、でもボワンと戻ってくるんだろうな」っていう推測のもと、彼が自分なりに描いた理想の右ストレートを具志堅空気人形に向かって繰り出そうとしたんだと思うんだ。繰り出そうとした理由はわからない。陽気な感じのアフロな具志堅に対してイラッとしたのかもしれないし、家庭や学校の事情によるストレス発散かもしれない。背景はわからないけれど、とにかくこの、オレの身長の半分にも満たない少年は、具志堅に対して渾身の右ストレートを打ち込んだんだ。

 右ストレートを打ち込んだ。その結果、具志堅は、その場に倒れ、少年にKOされました。見事にばたん、と倒れて…倒れたまんまになったんだ。

 いや、オレもビックリしたんだけど、その具志堅はトンッて押したらボワンと立ち戻ってくるだるまタイプの空気人形ではなかったらしくて、少年の渾身の右ストレートを受けた結果、バンッて倒れちゃったまま起き上がらなかったのよ。まさか日本が誇る偉大なチャンピオンが、少年にKOされる瞬間を目の当たりにするとは。

 そんな「チャンピオンが子供に…」と勝手に感極まっているオレよりテンパっていたのが、誰よりチャンピオンを伸してしまったその男の子で。きっとその子も「倒れてもこのアフロ人形は戻ってくる」っていう思いのもとに力一杯右腕をふるった結果、まさかのチャンピオンが倒れたまんまになっちゃったっていう状況に、勝者であるその男の子が一番驚いていて。その結果、彼はお母さんを大声で呼んでいました。お母さん、ぼく、そんなつもりじゃなかったのに、アフロのおじさんを倒しちゃったよと。


 っていう、おもしろ子供を見かけましたっていう話。

 入院の話の続きは、いまいちオチがつかなくて停滞中です。そのうち書くと思うんだ。