初めての入院5

 前回からの続きですが、ちょっと間が空いてしまったのでこれまでのあらすじを。オレは手術される直前です(あらすじおしまい)。でね、この手術直前っていうタイミングで、ビックリ発表を聞かされたんだ。

 オシャレメガネの看護師さんことクボっちゃんが開けた自動ドアの先には、患者をカラカラする小さい移動式のベッドと、その横に「担当の○○です」っていうにーちゃんが居て(名前聞き逃した)、そのにーちゃんからベッドに寝るよう促された。はいわかりましたよとカラカラベッドに寝っ転がろうとしたら、にーちゃんから「本人確認のために、お名前と生年月日と血液型をお願いします」と言われ(入院中、何かされるごとにこれでもかって言うくらい本人確認されます)「かねこけんいち、昭和56年6月11日生まれで、血液型は知りません」と答えた。オレをオレと確認するためにはこれ以上ない返答なんだけど(ホントに血液型知らねえから)確認してきたにーちゃんはあからさまに「マジで?自分の血液型を知らないの?」っていう顔をしながら、看護師さんが持っていた書類をのぞき見て「えーと…かねこさんの血液型は、B+ですね」と、実にサラっと言ってきやがった。いやいやお前いま凄いこと言ったぞサラッと言うんじゃねえよ!

 コレを読まれてる方はご存じかもしれませんが、いまこの瞬間まで、オレはホントに自分の血液型を知らなかったんです。血液型のアレコレの顛末を真面目にココに記していくと4日分くらいの日記が必要になってくるので、オレの血液型物語をダイジェストでお届けしましょう。「ところでお前、血液型は何型なの?」「ん、知らない」「知らないってなんだよ。じゃあ親は何型?」「親はOとB」というやりとりの後、分岐が発生します。
 聞いてきたヤツがO型だった場合「じゃあお前Bだよ。お前からはO型の臭いがしない」と言われ、O型以外の人だった場合は「あ、それならお前は絶対O型だね。絶対そうだよ」と言われ続けて29年という、オレって何?的な人生を歩んできたのです。ちなみに、人の血液型をいままでハズしたことがないという特さんっていう人からも「お前はO型だよ」と言われてました。だから勝手にオレの中で、多数派の「お前はO型」を採用していたのですが、結果、オレはB型だったという。そんなオレにとってはちょっと重くてミステリアスな29年間温めてきた血液型っていう情報を、この手術前の、本来緊迫すべきタイミングにもかかわらず、なんかサラッと軽い感じで知らされた事に対する衝撃。そして医者がそれを告げちゃったら、本人確認にならねえよなぁっていう二つの思いでいっぱいで、いつしか手術に対する緊張感は吹っ飛んでました。あと、いまこの瞬間に起こった出来事をすげえ周りにアピールしてえと強く思いながら、小さいカラカラベッドに寝転がったのです。B+だって。オレの血液型、B+だって。

 ベッドに寝転がりながら血液型に対する感慨にふけっていたのも束の間に、ここでまた新キャラ登場した。「麻酔科医の伊藤です」と名乗ったにーちゃんが横から突如現れて、なんかのついでみたいな感じでベッドをがらがらと押された。ベッドに寝転がって天井を見つめながら移動するのって初だなぁと思っていたら、なんだか手術室に到着したらしい。手術台の隣に横付けされたようだ。

 いわゆる、ここはよくテレビで出てくる手術室な感じですよ。部屋の周りは緑っぽい色で、除菌OKですよ、あと真上にはオレを照らす無影灯がスタンバイオッケーですよ、みたいな。そんなあるある風景を眺めつつ、天井にいっぱいあるライトの数を数えながら「主治医の先生のチームといい、麻酔科医の人といい、看護師さん達もそうだし、いったいどれだけの人がオレの右脇の手術のために絡んでくるんだろうなぁ…なんか、オレみたいなヤツにこんなに手間をかけてごめんなさい…」と、ぼんやり思っていたら、どうやら周りのセッティングが整ってきたようだ。麻酔科医の先生から、上着を脱いでこっちの台に移ってくださいと言われ、薄い緑の上着を脱いで、紙のふんどし一枚で移動式のカラカラベッドから手術台にごろんと移動。そしたら麻酔科医の伊藤さんと名前を聞き逃した外科医のにーちゃんとが、二人がかりで忙しなく心電図のアレやら血圧測定器やらを体にぺたぺたと取り付けてきた。されるがままって、まさにこういうことだなって感じで。もうホントにオレは何もできねえ。手術台にごろんと移動したのがオレの最後の仕事だった。

 で、どうやらセッティングも終わったようで、これから手術が始まる雰囲気になってきた。横にいた麻酔科医の伊藤さんから「これから全身麻酔を始めます。点滴のところが、ちょっと浸みますよ」と言われたので「これは小説や漫画でよくある、意識がブラックアウトするしないの狭間を楽しむ瞬間だな」とわくわくしていたのも束の間。「あ、左手(点滴の針が刺さっているところ)が、なんかちょっと冷たいな…」と感じたと同時くらいでオレもうストンて落ちてた。落ちる落ちないの狭間で意識の戦いとか、全く出来なかった。なんか手が冷たいな…の先の記憶がほぼゼロという。医学って怖すげえなー。

 以上が、手術前編です。次回は怒濤の手術後編ですよ。