初めての入院4

 ふと思いたって鎌倉をふらついていたら「最近忙しい?」と友人からメールが入ってきたので「いまは鎌倉をうろうろしながら紅葉の写真を撮ってるくらいの忙しさだよ」と返信しておきました。源氏山公園に居たネコがかわいかった。

 じゃあ、入院の話の続きを書くよ。

8/11(水)-1

 手術の日だ。

 慣れないベッドで眠りが浅いまま、寝たり起きたりしていたら夜が明けていたみたいで、6時過ぎくらいにナナちゃんがやってきて「カネコさん、お熱を…」と体温計を渡された。ナナちゃんがいかにも「どうか下がってますように」という表情をしていて、熱を測るのにここまでプレッシャーを感じるのって初めてだなぁと思いつつ測ったら7.7℃で。…すいませんって顔をしながら体温計を返したら、ナナちゃんが押さえつけるような目線をオレに送りながら「う〜〜〜ん、寝ててください」と軽い命令口調で言われた。とにかく熱下がれよこの野郎って感じの言い方がとても気持ちよかったです。それにしてもずいぶん体温に対して神経質だなぁと思っていたら、熱があると手術できない場合があるんだって。基本的に、37℃を超えているとアウトらしいです。「でも一応、点滴は打ちますね」と言われて、ナナちゃんに何やらわからぬ点滴をセットされた。一応ってことはつまり、熱のせいで手術当日の、というか手術数時間前の時点でやるかやらないかがグレーの状態っていう、かなりおもしろい感じになってしまったのです。おもしろくねえよ。ここで「やっぱり今日は中止で」って言われたら、オレ、どんな顔をしたらいいのかな。うーん、どんな顔をしよう…と思いふけっていたら時がそれなりに流れていたらしく、ナナちゃんから昼の看護師さんことクボっちゃん(あだな)に交代。メガネがオシャレな人。

 よろしくお願いしますの挨拶後、クボっちゃんがオレの発熱に対するお医者さんの見解を説明してくれた。曰く「形成外科の先生(主治医の人)は、脇の腫れのせいで熱が出てると思うから、手術をしてしまいたいっていう考えみたいです。ただ、麻酔科医の先生が熱を気にして嫌がってるようで…」とのこと。部署ごとに思いが違うのはどこも一緒なんだな。その後クボっちゃんも「何か心配なことはありますか?」と聞いてくれたので「とにかく痛いのが怖いです。手術に関しては、まな板の鯉の気分です」と答えたら「いい心がけですよ。任せてくださいね」と。任せますとも。そのあとしばらくヒマタイムを過ごしていたら、クボっちゃんからX線の写真を撮りに行ってくれと急に言われた。熱のせいで手術をやるやらないの意見がお医者さんの間で割れているから、X線写真を見てどうするかを決めようっていう話になったんだって。だから、撮った写真はその場でもらってくださいねとクボっちゃんに言われて「その場で受け取り」みたいなカードを渡された。OKわかった撮りに行くしその場でもらうよ。っていうのと同時に気づいたんだけど、ところで点滴の管の入り口あたりが血で赤くなってんだけど、いいのかなこれ?血が管の方に来てるってことは薬が体に入ってなくて、それは点滴の意味をなしていないんじゃないかなっていう不安。

 その不安を抱えつつ、オレのベッドがある7Fから2FのX線写真を撮るところに向かいました。点滴のあの、何て言ったらいいの?名前わからないけど、いわゆる病人のお供的な袋を吊してあるアイツをカラカラ引きながら。こいつをカラカラしていると、病人だっていう感じがすごくするんだ。それプラス、エレベータの溝がスゲー怖い。カラカラが溝に引っかかってカツンってなって点滴の針が抜けたらどうしよう的な恐怖。まぁ結果、大丈夫だったんだけど、そんな恐怖を抱えながらたどり着いたX線写真の撮影待機場所は結構混んでいて、ちょいとした待ち時間が発生したのです。なのでイスに座って、繁盛してんなこの病院と思いながらぼぅっとしていたら、向こうから看護師さんに車イスを押されて点滴を2,3本刺されたカラカラのじーさんがやってきたのです。首ぐったりがっくん、な感じの。じーさんは完全に意識朦朧で、車イスを押している看護師さんはホントにゆっくり丁寧に「大丈夫?何かあったら言ってね?これから写真を撮るからね?」と話しかけているんだけど、じーさんノーリアクション。その光景を見て、生きてるってなんだろなぁ、あとあのじーさんに税金どのくらい使われてるのかなって思った。思ってたら「カネコさーん」と名前を呼ばれて、健康診断の時におなじみのX線写真を撮る部屋にお呼ばれしました。

 部屋に入ったら担当のお姉さんが居て「それじゃジャージを脱いで撮影しましょう」と点滴の管が抜けないように上手にしながらジャージを脱ぐのを手伝ってもらって、あの平たいヤツに胸をつけて「はい、息を大きく吸ってー、止めてください」とX線撮影。オレこの時に気がついたんだけど、オレは息を止めるのニガテなんじゃねえかと。お姉さんの「止めて」から「はい、普通に呼吸してください」までの間が超辛かった。呼吸は普通に出来るに超したことはないよ。で、X撮影後、ジャージを着ようと思ったらお姉さんが「あ、点滴の管、血が逆流しちゃってますね。カネコさん背が高いから…」と管をトントンされて血を戻されつつ、点滴袋をもっと高い位置に上げてくれた。「血が戻ってるのは良くないんですか?」と聞いたら「そうですね、あんまり良くないんですよ」と。やっぱりか。身長のせいで袋とオレとの高低差があんまりなくて、圧がいい感じにかかってなかったみたいだ。ということで豆知識。点滴で血が逆流してたら、看護師さんにアピールしよう。

 で、そんな苦難を乗り越えながらX写真を撮られて病室に帰る途中でクボっちゃんとバッチリ遭遇して「ちょうどいま手術室の方に呼ばれちゃいました。あと、ご家族の方が来てますよ」と。あれ?X線写真の結果を見て、手術やるやらないの判断をするんじゃなかったの?と思いつつ病室に戻ったら母と弟が居て、ちょっとしゃべってたらクボっちゃんに「じゃあ手術室の方へ行きますよー」と声をかけられ、みんな一緒に手術室の方へ向かうことに。この時点で熱を測ったら7.2℃まで下がってた。ナナちゃんの願いの効果と思っておこう。

 手術室に向かうエレベータの手前にあるナースステーションのところで、姉御的なナースことミツハシさん(あだな)から本人確認のために名前と生年月日を聞かれて答え、さらにそれを記載した本人確認用のリストバンドを右手につけてもらった。熱があるみたいだけどがんばってね的なことをミツハシさんから言われて、はい、と答えてエレベータの方に向かいます。点滴を吊している棒のヤツをガラガラと引いているオレの姿を見た弟が「えらいことになってるねぇ」と言ってきて「今まで大過なく生きてきたのにな」と返したら「いやいや」と言われた。うーん。

 この、いつも使っているのと違うエレベータ(手術室に向かう専用のヤツ)でブーンと移動している最中、母から「怖い?」と聞かれ「手術が終わるまではオレじゃどうしようもできないから、お医者さんに丸投げだよ」と答えた。ホント、どうしようもねえ。怖がったら痛みが小さくなるわけでもねえし。そんなこんなしてたらエレベータのドアが開いて手術室の前にたどり着き「ご家族の方はこちらまでです」とクボっちゃんに言われて、母と弟に「じゃ、行ってくるねー」と手を振って別れた。

 クボっちゃんが手術室に続く自動ドアを足で開けて、その先にはテレビとかで見覚えのある患者をカラカラする台車みたいなベッドみたいなヤツがある。よーし、いよいよ手術だ。