ファミレド

 お久しぶりです、日本に居ます。昨日は鎌倉であじさいの写真とか撮ってたから、まだしばらく居るんじゃないでしょうか。ということで、何事もなかったかのように普通の日記を書いてやろうと思います。一ヶ月前の出来事だけど。


 別にね、霊感とかは全然無いんです。無いんだけど、たまーに「あれ?いまちょっとこの世の向こう側に遭遇した?」みたいになる時ってありますよね。なんかちょっとおかしいぞっていうアレ。そんな話をしてみよう。

 なんとなくね、急にG-SHOCK的な時計が欲しいんだ!という衝動に駆られまして。この前ノートPCを買ったポイントもまだ残ってるしってことで、アキバのヨドバシに行くことにしたのです。その道中で起こったなんか変な話。

 献血ゾーン側の電気街口から駅を出て、ここ数年で開発されたビルとビルとの狭間ら辺を通ってヨドバシの方に向かっていきました。途中、なんか小っちゃい店に4,50人の女子オンリーの行列ができていて、アキバなのに?と思いながらも深くは詮索せずてくてくと歩いていたのです。そしたら向こう側から、僕より年がちょい上くらいのOLさんが小走りでこちらの方に向かってきました。僕が歩いてOLが走っているその地面はアスファルトなので、カッカッカッというヒールの音を周囲に響かせながら、その響かせOLと僕との距離がだんだんと縮まってきて…で、すれ違うちょい前くらいに、あれ?って思ったんですよ。いまこの瞬間の、なにかがおかしい。なんか気持ち悪い。違和感丸出しのこの状態はなんなんだ…で、聡明なオレは、そのおかしいなにかに気がついた。

 絵と音が、ズレてるんですよ。具体的に言うと、OLが走っている絵と、カッカッカッの靴音のタイミングが合っていないのです。カッカッの音の方が、あからさまに遅れている。目前から迫ってくる小走りのOLの靴が地面に触れてから、ちょっと遅れてカッって音が鳴ってるんですよ。そりゃ光と音の速度はまるで違いますけど、たかだか数mの距離でそんなにズレは生じないでしょう。でも、それはそれはあからさまに遅れてるんです、OLの足音が。
 そんなことあんのか?オレが変な思い込みをしてるんじゃねえかって思って左右を見渡し耳を澄ませて周り人の足音を確認しましたが、確認した結果オレは変じゃないんです。他の人は動きと音が一致してるのに、やっぱりそのOLの足音だけが少しだけ遅れてるんですよ。なにコレちょっと怖いよ意味わかんないよ誰か抱きしめてよ…と若干パニックに陥いりかかったんですけど、いろいろ思索した結果、コレは幽霊、そう、音幽霊の仕業だきっとそうだという結論に落ち着いた。幽霊の仕業なら仕方ねえわ。

 オレが想像するに、この音幽霊はきっと生前は心優しい良いヤツだったんです。でもその温厚な性格が災いして、いじめられたりしちゃったんだろうなと…たとえば、なんだ、概念とかにさ。概念とかに「お前、調子にのってんじゃねえぞ」音「そんな、僕は調子になんてのってないです…」「なにいい音出してんだよ!もういいから焼きそばパン買ってこい!」「は、はい!」「いい音出してんじゃねえよ!!」みたいな感じで、概念的にいじめられていたのではないかと。

 そんな風に概念やら、その友達のパノラマやらに小突かれ、虐げられる日々が続いて、心優しい音もとうとう耐えきれずに「もう、死んでしまおう…」という思いに至り、遺書も残さずビルの屋上から飛び降りてしまうのです。いい音で。でもやっぱりホントのオレはこうじゃない、生前にもっともっといい音を奏でたかったのにっていう恨みつらみが残ってしまって、彼は音幽霊になってしまいました。憎しみからはなにも生まれないというのに。

 そして自暴自棄になった彼こと音幽霊は、誰彼かまわずに取り憑いて、そいつから音を奪ってやろうと企てます。もう僕はいい音を生み出すことができない、それならいっそのこと、この世から音を消してしまおうと。そんな歪んだ思いを持った音幽霊の目の前に、たまたま現れてしまったのが上述の僕より年がちょい上くらいのOLさんで、音幽霊にふわっと取り憑かれてしまったのです。彼女がこの先迎えるのは音を奪われてしまった悲しい世界なのか…と思いきや、音幽霊的に取り憑くところまではうまくいったものの、初めてなのでどこをどうしたらこのOLから音を奪えるのかがわからない。なんか目の前にはスイッチだのダイヤルだのがいっぱいあって、もうパニックになって適当に回したダイヤルが残念ながら音量じゃなくてタイミングをずらすヤツだったから、OLのヒールの音がちょっとだけ遅れちゃったんだろうなぁ。

 そんな奇妙なOLの後ろ姿をどや顔で見送りながら(結論が出たので)、もしアイツに声をかけてあげられるのならば、こう言ってあげたかったです。お前、いい音、出してるぜって。