トーキョー地裁に行ってきましたよ

 
 いや、悪いことはしてないよ?むしろ雨に濡れた子犬を見つけてはハグしているくらいの勢いだ。ハグした後、元に戻すけど。ところでみなさんは、裁判の傍聴って、特になんの制限もなくできるって知ってた?知名度が高いヤツは抽選になるけど、それ以外のはふらっと部屋に入って聴けるのです。http://www.courts.go.jp/kengaku/pdf/hotei_guide.pdfちなみにオレは数年前までこのことを知らなくて、ちゃんとした人(ニート入り前のオレのような人)じゃないとダメだと思ったんだけど、パーカーにジーンズにスニーカー姿でも東京地裁は優しく、手荷物検査だけで迎え入れてくれました。

 そもそも見に行こうと思ったキッカケは、裁判員制度のせいなんです。学生の頃は社会系の科目から全力で目をそらしていたので(社会系だけじゃないけど)そもそも裁判ってなんだっけ?ってとこから始まって、ホンモノの裁判を見たこともないのに裁判員がどうしたこうした言えないよなーと思ってから、いつか傍聴デビューをするんだと短冊に書きしたためては消しゴムで消していたのです。エコ。

 そんな思いを胸に抱いて、とうとう着いたぞ霞ヶ関。ここは通り過ぎるための駅だと思ってたけど、坂道が多くて案外楽しいなぁ…と思っていたら、またここで記憶のトビラが開いた。オレ、数年前にこの辺に来たことある。そうだ、弟と二人で名字変更しに来たのってたぶんこの辺だよと思って帰って調べたら、やっぱりこの辺(家裁)でした。名字を変えるのって案外カンタンですよ。あと、このとき戸籍謄本を見たら、既婚時の母親の姓名に思いっきりバッテンが書いてあって、弟と二人で「だからバツイチって言うんだー」と妙に感心した時の記憶のトビラが開いた。ヒマだといろいろ思い出して楽しいなぁ。

 ミスター閑話休題。で、駅の出口を出たらすぐ東京地裁だったんだけど、なんかいざ裁判所を目の当たりにしたらなんだかドキドキしちゃって地裁の入口をスルーして、隣の法務省まで行って帰ってきてからドキドキしながら足を踏み入れました。さて、オレと同じく裁判所ビギナーなお前らに教えてやろう。入口をくぐると正面に警備員さんが座っていて、その隣にきょう開かれる民事・刑事裁判それぞれの一覧表がファイルされたものが数冊置いてあります。それを見て何番の部屋で何時から何の裁判が開廷されるかを調べて、その時間になったらそこに行って、傍聴席に座って、見たり聞いたりする。それだけ。民事裁判は借金がらみが多くて(被告がアイフルだったり武富士だったり)刑事裁判は麻薬関係が多かったかな。たまたまかもしれないけど。

 とりあえず感想ですが、超おもしれえ。人生の内の一日は、ここに使うべきだ。まず、裁判官のキャラが多彩すぎる。すげえフランクなおっさんだったり、高圧的なおばちゃんだったり、牧師さんみたいに諭すような人だったり、普通に被告人に説教するような人だったり。こんな多彩で審議がブレたりしないのか?って心配してしまうくらい、色んな人が居てビックリした。オレの裁判官イメージは、人間的な感情を極力出さずに判決を言い渡して、家に帰ってから「これで良かったのだろうか」と苦悩するような感じだったんだけど、それぞれキャラありすぎだ。「このままだとたぶんアンタ負けるから、ちゃんと証拠書類出しな?」(高圧的なおばちゃん)とか「いまさらこの段階でこんな質問をするのもアレだけどさ、〜〜〜ってホントにそうなのかな?まぁいいか、アッハッハッー」(フランクおじさん)とかサラっと言ってた。後者の質問は専門用語っぽくてよくわかんなかったけど、その場にいたオレ以外の全員が「いまここでそれ言うのー?」っていう空気になってたから、なかなかのモノだったんだろう。

 あとは、民事より刑事裁判の方がおもしろいな。裁判官−検事−弁護士−被告人のやり取りが、こんなに楽しいとは思わなかった。モノによっては、下手なコントより笑える。例えばこの裁判は、ポリポリのじいさんだったんですよ、被告人が。年はたぶん70前後じゃねえかな。問われている罪は、窃盗。スーパーの万引きの常習犯らしくて、以前まで刑務所に居てやっと出てきたのに、また万引きをしてもどってきちゃったおじいさん。とにかくアホみたいによくしゃべるけど、論理は穴だらけで愉快でした。

 じいさん曰く、盗った瞬間だけ記憶が無いらしいんですよ。供述を聞いていると、○月○日の○時頃に店に入って、そばとつけものと煮物とビールをカゴに入れて、そこから覚えてないんだけど、店を出た○時頃にいきなり警察に連れて行かれた。で、その○時間後に調書を取られて、○時頃に調書にサインして…というところまで明確にしゃべってるんです。えらい記憶力いいなと思ってたら「でも、盗った瞬間だけは覚えてない。いつの間にか手持ちの紙袋に商品が入っていた」と。わあ。調書に書いてある内容も、じいさんが万引きをしたトコロをずっと見ていた婦警さんの証言に釣られて、想像でそうやって万引きをしたんじゃないかと思ってしゃべってサインをした。だからその調書はデッチあげで、オレの証言によるものじゃない。オレは盗った時の記憶はサッパリないんだ。もしかしたらこれは記憶障害、ボケの一種かもしれないから、精神鑑定をしてくれないか…が、被告人の主張。ちなみにこの被告人が供述している最中、弁護士が何回もアタマを抱えてた。なんでそんな余計なことを言うの?みたいな感じで。おもしろいなー。一部始終を婦警さんに見られていたこともおもしろい。バレバレじゃん。

 そんなじいさんの供述後、次に検察のにーちゃんの番になったんですけど、立ち居振る舞いから見るに、たぶんこの人、ものすごく優秀。そんな人が「やってらんねぇ」っていう空気をあからさまに出してた。心底めんどくさかったんだろなー。調書の内容をポリポリじいさんに再確認して、サクっと「以上です」と言って裁判官にパスを投げる。言うまでもないよな?みたいな感じ。

 次は、検事さんからパスを受け取った裁判官のおっちゃんの番。「えーと、あなたの話を聞いていると、どこで何をしたとかハッキリと覚えているようですが、万引きをした瞬間だけ記憶がないなんて、あまりに都合のいい話に聞こえます。本当に覚えていないんですか?」と言って、ジーと被告人の目を見る。その眼力に押されたのか「え、えーと…」とどもりながら、記憶に残っていないの主張を繰り返すポリポリじいさん。後ろ姿しか見えていないオレからですら、ウソをついているのがわかりやすすぎて、なんだか憐れだ。そりゃ弁護士もアタマ抱えるよなーと思ったところでじいさんの話は終わり、裁判官が「わかりました。なお、被告人は精神鑑定を要求していますが、それに対する意見はありますか?」と検察にふる。
 検察のにーちゃんはバッサリと「不必要です」と。弁護人「だよなー」被告人「あぁ…」って表情。続けて検察は「被告人は記憶障害のために生じた犯行である可能性を主張していますが、精神鑑定とは責任能力の有無を判定するものであり、記憶障害であるかを調べるものではありません。ここまで被告人の発言から、日時等は詳細に記憶しており、その発言・主張も明確であるため、精神鑑定は不要であると考えます」「だよね、ということで精神判定はやりません。今日はここまで。次回は11月4日の16時から続きをやろうね」っていう裁判官の言葉で、オシマイ。じいさん、ぷるぷるしてた。

 なんかすごく楽しかったので、ノリピー裁判にも行ってしまいそうな勢いです。いまのオレなら、抽選くらい乗り越えられる気がする。