トミコちゃん


 ちょっと長くなる気がするけど、まあお聞きよ。


 佐渡の話の続きなんですけどね。結婚式の次の日、新郎のにーちゃんが「今日は一日お前らに付き合ってやる」と言ってくれて、朝じーちゃんばーちゃんおじさんの墓参りをした後、僕と弟トニーちゃんで佐渡をふらついてきたのです。あからさまな誤字がありますけどなんかおもしろいので放置。それで、たらい舟みたり砂金取ったりゴルフの打ちっ放しに行ったりと心ゆくまで遊んだその夜、おばちゃん(にーちゃんの母親)が焼き肉食べに行くぞーと言うので行ったのです。んでね、おばちゃんの仲良しさんもその席に合流したのですよ。トミコちゃん夫婦と、よっちゃんのおばさんと。最初は知らねーおっちゃんおばちゃんとメシ食うのってやりづらそうだなーと思ってたんですけど、えーと、佐渡の人って基本的にハイレベルなのね。めちゃめちゃ楽しかったです。


 そんなビール焼き肉焼き肉ビールおばちゃんの下ネタアハハハハーな席を満喫していたところ、トミコちゃんの旦那さん(こちらはタンちゃんと呼ばれていました)とバイクの話になりまして。「佐渡の道をバイクで走ったら気持ちいいでしょうねー」って言ってたら「じゃあ明日貸してあげるから走ってきなよ」と。あらあらそんないいですよいいんですかじゃあお言葉に甘えておっとグラス空いてますね中生ふたつ追加でー。



 んで次の日。タンちゃんから借りたバイク壊した。いや違うんだ。きっと金属疲労かなんかなんだ。クラッチのところのなんか棒みたいなヤツがパキっといっちゃったんだ。「おはようございますー」とトミコちゃんのトコ行ったら「けんちゃんおはよー。お父さん、バイク用意しておいてくれたよ。はい、ヘルメットと手袋」(中略)パキ「うそー!ごめんなさい!ごめんなさい!」いやね、タンちゃんね、すごいバイクをキレイに手入れしていたんですよ。そんな大切な物をパキっとやっちゃってこっちはもう申し訳なくて申し訳なくて。


 ところがここから佐渡人本領発揮です。本領ってなに?めちゃめちゃいい人なんだこれがまた。バイク壊したのは僕なのに、「せっかくけんちゃんが楽しみにしていたのにバイクが壊れてしまってこちらこそ申し訳ない」的な流れになってんですよ。いつの間にか。いやいやいや違うだろうなんでトミコちゃん謝ってんのさ。「いやそんなことないですって、壊したの僕なんだからホントごめんなさい」「いやけんちゃんかわいそうだお詫びといってはなんだけど、この車を貸してあげるからこっちで走っておいでよ」「え?」「あ、ガソリンあんまり入ってないからいまから入れてくるちょっとテレビでも見て待ってて」「え?」ブーン


 ここでたむらさん考えました。人のモン壊したら、お詫びをするのは当然のことです。でも絶対こんなトミコちゃんが素直に金を受け取ってくれるハズない。…あ、テーブルの上に紙と鉛筆がある。つーことで、トミコちゃんがガソリンを入れている間に「バイク壊してしまってごめんなさい」というメモ書きを添えて一万円をヘルメットの中にそっと隠しておいたのです。お詫びをするにも気を遣わなきゃお詫びさせてくれんのです。こっちの人は。つか、ふつーは車借りたらこっちがガソリンを満タンにして返すモンだと思うんですが、慌ててガソリンを満タンにしに行ったトミコちゃんはなんなんでしょう。


 それで車をお借りして、近場の温泉に浸かってきて、僕は東京に帰ってきました。帰ってきた途端研究室に泊まるハメになりました。その泊まっている間に、母の方に、この一万円の件でおばちゃんから電話があったらしいのです。トミコちゃんがおばちゃんに、僕がお金を置いていった話をしたら、おばちゃんが「バイクの修理代は10万円かかっても私が払うから、そのお金はケンに返してやってくれ」と。いいおばちゃんです。それでそのお金をまた東京の方に送り返してくれたらしいのです。その時点でその一万円がもうなにがなんだかわからなくなってるんですけど、おばちゃん曰く「トミコちゃんが『ケンちゃんに切ない思いをさせて申し訳ないから』ってリンゴと柿をくれたから、それも一緒に送っておいた」って。えーと、お詫びのつもりで払ったお金にリンゴと柿がくっついて返ってくるらしいです。なんだこれ。バイク壊し長者?


 そんなお話の最後に聞いたんだけどね、僕にバイクを貸してくれたタンちゃんが「きっとこれは、ケンちゃんのおじいちゃんとおじちゃんが『危ないからバイクに乗るな』っていう意味で壊してくれたんだよ」って言ってたそうです。いい人だらけかこの島は。つーことで週末はこの柿をつまみに佐渡の地酒で一杯やろうと思います。ちなみにこの酒もおばちゃんに買ってもらった。ひゃー。