のんたん

 バスでとある停留所に着いたとき,小学3,4年生の男の子がなにやら声を発しながらとたとたと乗ってきた.その子はふらふらしながらあっちを見,こっちを見して,オレのとなりにトスンと座り,腕にしがみついてきた.「すいません,この子,目があまりみえなくて.のんたん!隣にお兄ちゃんがいるから,じゃましちゃダメだよ!」その,のんたんと呼ばれた子と一緒にバスに乗り込んできたおばあちゃんがそう言い,大きな声で補聴器をつけているのんたんに向かって,ひっきりなしに話しかけていた.おばあちゃんと一緒にもう一人,オレと大して年が変わらないくらいの女の人も居た.母親なのだろうか.その人も「すいません」とオレに言いながら,一生懸命のんたんに向かって声をかけていた.のんたんは時々,お母さんやおばあちゃんに言われた言葉をリピートしながら(きっと意味はわかってないと思う.響きが良かったからリピートしてる感じだった),オレにぶつかってきたり,またしがみついてきたり,なにか乗り物に乗っているマネを全力で表現したりしていた.

 毎度のことなんだけど,考えるよなーこういうのって.のんたんはバスに乗っている間,ずっと笑顔だった.笑顔だったんです.